陽だまりの樹


手塚治虫の『陽だまりの樹』を読んで…いや観ていた。
手塚の曽祖父にあたる手塚良庵の生きた江戸幕府末期を舞台にしたものだ。
陽だまりの樹」とは藤田東湖が組織として腐敗と硬直化が進む幕府の
末期的有様を例えて表現したものだ。


手塚作品では『火の鳥』をよく読んだ…いや観た。
輪廻、復活、人間の業、永遠の命などという深遠なテーマに沿って
物語が進行していく。パッピーエンドや救いで完結することは殆ど無い。
むしろ、最終ゴールが事なきを得ずという幻想と、
人間というものが全てにおいて万能であると錯覚する人間の愚かさを
改めて考えさせられるような内容である。
人間も地獄、極楽、修羅などと同じ生きる道のひとつなのだ。


陽だまりの樹』は全25話あったが、一気に鑑賞した。
主人公の伊武谷万二郎は、綾さんと結ばれて幸せを掴む間も無く、
彰義隊に参加して生死不明。
良庵は維新を迎え、西南戦争の途中で赤痢で病没。
復員したらお紺さんと面白い商売できたかもね。


バブル崩壊直後の、まだ景気上向きの余韻があった頃、
会社命令でよくパーティーに顔を出していた。
日本経済がいよいよ転換期を向かえ、その時には分かるまい
失われた10年・20年」の奈落の底が開こうとした頃だった。
重役、客賓など数々の開会の言葉があるんだが、
いつも決まって阪本龍馬の話とか幕末の話とか出ていた。
「今こそ龍馬のような新しい発想を…」とか
「転換期にある経済は正しく幕末維新と同じである!」というようなもの。
話半分で聞いていたけど「だからオマエが辞めろ」と呟いていた。
現場が目に見えて変化を求められ苦境に居た。どうしようもなかった。
経営者には経営者の苦しさも分かるんだが、器用に生きるって難しい。